建築家藤森さんの著作「建築史的モンダイ」(ちくま新書)
オフコース小田和正氏のご学友藤森さんはわかりやすくそれでいて新規性のある内容の文章をお書きになるせいか支持者も多くかなり多筆の様子。この本も面白ろかったので紹介させていただこう。
②熊本の学生寮
もう一か所嫌いな杉の使用について述べているところがある。
「杉の重用が招いている? 日本の建築の不幸」だ。
熊本県の学生寮を設計するとき、県産木材の振興という大前提から杉を使わざるを得ないことになった。
で、地元の製材所を訪れると幅30cm、長さ3m、厚さ4cmの杉板が積み上げられている。杉板としては異例に厚く、これだけ厚いと杉のひ弱さは感じられず堂々として風格さえ漂っていると感じ、
こんなに厚いものは見たことがないので製材所に聞くと建築用ではなく建設現場の足場用とのこと。
値段も安いので床材に使うことにしたが県から「足場用を使うとは言わないで。厚さ4センチの杉板を使うといってくれ」と注意されたとのこと。
面白いエピソードだが足場板を知らないとは。
厚さ40ミリ弱、長さ3mの杉足場板などちょっとしたホームセンターに普通に置いてあり、それをDIYで使う人などざらなのに。
私も床以外で多用している。
45歳から設計も始めた大学の先生、現場・現実の知識不足だったよう。
理論、理屈は知らなくても百姓仕事の一つとして大工仕事をする人、あるいは価格にシビアなアマチュアDIYの方が詳しいという側面があるようで。
① 養老昆虫館
「焼いて作る 建築」という項目がある。
藤森氏、ナラやクリは使いたくなるが杉は嫌いだそうでその説明をかなり長く書いている。
杉を好む私、あえて反論すると正倉院唐櫃はほとんどが杉、その他超長期保存に適することもあって博物館等で重用されていることを見落とししているのは建築史家としてはいかがなものかと思うところだが、その点は深入りしない。
さて、フジモリ氏、嫌いな杉を養老孟司さんの養老昆虫館では使っている。
焼杉としてである。
焼杉も一般に行われている1センチ前後の板を使い表面を5ミリほど焼いて炭化させるのはペラペラ感があっていやだが厚さ2センチの板を使い1センチを焼きこんで「炭」にするとしっかりした感じになることが分かったと評価を変えている。
そして昆虫館では炭の印象を強くするため焼杉の全長はふつう3mが最大であるがなんと7mに挑戦している(学生のように新たな実験的製作に挑むところが東大教授らしからぬ美点と思う。)
長いので落差の大きい田んぼの石垣で1日がかりで焼いたのこと。
焼杉は西日本の大工棟梁で使われても建築家は近寄らなかった。建材としての炭など日本の焼杉以外世界の建築史にないと出来上がったものに感動しながら述べている。
土も炭もこれ以上変化しない究極の建築材料と述べている。確かにそうだ。
作り方を述べているがこれはロケットストーブとの関連で重要だと思うのでこれも引用紹介しよう。(テレビで見た西日本の焼杉づくりと同じ)
「厚い杉の板3枚を針金で3か所縛って三角形の筒を作り。立てかけ、下から新聞紙1枚を丸めて詰めて火をつけるだけなのだが、煙突効果と3枚の相互反射熱効果によって、三角の筒の内側は一気に燃え上がり、やったことのない人にはにわかに信じがたいだろうが、3分後には7mの筒の先端から。1m近い炎が噴き出す」
「そう大砲のようなのだ」。
ロケットストーブは○●年アメリカ人○●によって発明~とか紹介する文献が多いが3枚杉板直立焼杉製法はロケットストーブの原型といえるのではないか?
2017.3.17記