高畑勲・野坂昭如・樋口一葉のこと
高畠勲(たかはたいさお)氏が4月5日に亡くなった。
またしても文化・芸能人に多い82歳というお年だった。
私、映画を見る習慣はほとんどなく、見た本数はとても少ないがその一つ「平成狸合戦ぽんぽこ」にはとても感動した記憶がある。
都市開発と何とかというテーマにではなく細部までにわたる緻密で集中力をもって作っているその職人気質にだ。
氏のもう一つの傑作に「火垂るの墓」があり、その原作者野坂昭如のことを連想する。五木寛之はたまたま近くでお姿を複数回拝見しているが野坂氏については見たことがあったかなかったかはっきりしない。一度あったかもしれない。
氏については逃げ足が速いという印象を持つ。選挙に出たり、新潟で田んぼをやったりと華々しい行動でマスコミの好意的な脚光を浴びていたが、予定していたある講演が当時内ゲバ殺人を繰り返していた超過激派の圧力を受けて簡単に逃亡して、なーんだと思った記憶がある。
野坂氏の、養父母がなくなり妹と二人で戦火跡の神戸を這いずり回った話は涙を禁じ得ないが、窃盗を繰り返して少年院に入っていた時実父が別にいて(新潟県副知事)その父が迎えに来たというシンデレラストーリーも興味深い。
実父は一高、東京帝大卒の文章も書く理系エリートだったらしい。そのDNAを受け継いでいるのだろう、野坂氏はあちこちの有名学校に籍を置いている。
樋口一葉は貧困の中、24歳で結核で亡くなっているが一葉にもシンデレラストーリーの可能性があった。
一葉は文章指導を受けた新聞記者との恋ばかりが述べられているが、一時はれっきとした婚約者がいたのだ。父と同郷で父も面倒を見たことのある向学心に富む青年だった。
高文(高等文官試験)に合格し若き検事になって一葉宅にも来ているがその収入の高さに驚いている記録がある。
父の借金・零落が影響したらしく仲人口もあって婚約は解消されてしまったが、もしその婚約がそのまま結婚に至っていたらと考えてしまう。
婚約者は野坂の実父より高位高官についており、場合によっては一葉は高官夫人になっていたのだ。
そうなっていれば幸せだったかも知れないが名作は生まれなかっただろう。
2018.4.9記