老年の新人
「特異な輝きを持つ受賞者の出現はその賞を活気づかせる」の出だしで始まる文芸月評(読売8.25)は、又吉さんと羽田さんの芥川賞に触れた後、2年前に最高齢75才で受賞した黒田夏子さんのことを述べ、その黒田さんを見出した早稲田文学新人賞に話を進める。
今年8月、80歳近い中野睦夫さんがその早稲田文学新人賞を受賞したのだ。
待田記者は、「老年の新人の魅力は長い間、世間からかえり見られずに書き続けた途方もない孤独の跡が、小説に刻み込まれている」と書いている。
やや残酷、冷徹な表現だがそのとおりだろう。
かって現代詩人荒川氏がNPOなどやっているのは本業がパッとしない連中だと述べたことを想い出す。
挫折と失意の中で山奥に隠棲した鴨長明。
世間からかえり見られずに後半の人生を終わったが、文章での表現とは裏腹に心の片隅にはいつか広く認められたいとの気持ちは残り、書き続けることはやめなかった。
無為だ、逃げだ、などいろいろ言われても最後の最後、個としてのプライドは捨てられない。文章を書くことは自己を主人公にできることで、自己救済になるのだ。
長明は百年、二百年の年月を経て古典になった。
中野さんは80近くなって顧みられることになった。ハッピーエンドの人生となった。
(2015.9.18)