庄野潤三
名前は何となく知っていた。
確かビッグな文学賞を多数とっている人だ。その程度。
が、読んだことは一度もない。
ある日、朝日の書評欄に何とも言えずに魅力ある書き方で古い著「夕べの雲」(昭和40年)が紹介されていた。
それで読んでみた。
小さな男の子の兄弟の立ち振る舞いが素朴で無邪気で可愛いい。
人を恨まず、悪口を言わず家族を愛おしむ姿勢、なんだかサザエさんの家庭みたいだ。
九大の同窓島尾敏雄、井伏や小沼など稲門、遠藤、安岡等三田出身者と交友も広いようだ。彼の性格、生き方ならそうなるだろう。皮肉屋の江藤淳も好意的に見ていたようだ。
書く内容は、身の回りの日常的なことが殆ど。
家族のこと、植物のこと、近所との交流等々。
あれ?銀色夏生と似ているではないか。
銀色氏は文学者扱いされていない?のに庄野氏は渋い文学界の重鎮と見られているのはなぜ?
それはともかく銀色氏はまだ若いから話す期間は短いが、家族のことを書き続けることに迷いもあるようだ。
庄野氏は高齢だからその期間が著しく長いが、迷いは感じられない。
なんせ、可愛い子どもはもう、孫を持つ年になっている。
家族もえんえん作品の中で取り上げられて大変だろうと思う。普通ならいい加減にと反発があるはずだがそれもない模様。尊敬されている父性の勝利と言えよう。
「ありがとう」、「良かった」、「おいしい」などの形容詞が多く、暖かい気持ちになる。一度その世界を知るとラジオ、テレビの長寿番組同様まるで片面的家族化現象が生じ、触れていたくなる。
氏は80歳を超えている。後何年その場を設けてくれるのであろうか。
先年長いつき合いの阪田寛夫氏が亡くなり(丹下健三氏と同じく3月22日)、気落ちしているだろう。
(2005年3月記)
上の駄文は2005年に書いたもの。庄野氏は故人となっている。
(2014年11月記)