田舎暮らしの本は巷に溢れているが、ややもするとムード的礼賛本が多い。
そんな中、部分社会以外でも実績ある人の辛口の書は説得力に富む。丸山健二氏のそれは既に知られているところだがもう一人いる。
信州でワインづくりもしているエッセイスト玉村豊男氏だ。
スローライフとかかわる氏の論考は面白くかつ共感を覚える。
取材が多く、その時、テラスで夕日を見ながらワインを飲むシーンを好んで求められるそうだ。
これについて本音を言っている。「君がやれっていうからやってるんじゃないか。撮影がなければ他にやることがいっぱいあって、こんなことはしていられないんだ。」
大体まだ明るいうちから悠長に時間を潰している暇はない。
畑の世話、什器の修理とにかくやらなければならないことが目白押し。
美しい夕日の風景なんてせいぜい3分眺めるのが関の山と言っている。
だろうね。
広大なブドウ畑など持っていない自分でも30分刻みで目白押しの作業にあたっている。
少し庭が広ければ草刈の苦役も半端じゃない。早朝と日没前だけでは済まず30数度の炎天下でもやらざるを得ない。
畑や家畜をやっている人はこのレベルではない。
日々ゆっくりテラスで夕日を見ながらワインを飲みたいなら、庭や家屋を持たない(あるいはメンテ不要の賃借にする)、畑をやらない(消費物はすべて購入で賄う)、調理は外食か
インスタント食品(まさにスローフードの対極)ということになろう。
さすがに仏文学を修めたインテリさんだ。見事にスローライフの定義づけをしてくれている。
「スローライフはほんとに忙しいのです。
スローライフとはゆっくりスローに暮らすことではない。暮らしに手間をかけるライフスタイル。なんでも簡単に買って済ませたり、人に頼んでやってもらったりするのでなく、生活に必要なこまごまとしたことをできるだけ自分たちの手でこなし、すぐに結果を求めるのではなく、その結果に至る過程を楽しむこと。」
2016.9.12記